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京都地方裁判所舞鶴支部 昭和55年(ヨ)8号 判決 1980年11月19日

債権者 白鳥生コン株式会社

右代表者代表取締役 安東三郎

右代理人弁護士 前田知克

同 鼎博之

債務者 大谷商会大谷生コンこと 大谷泰孝

<ほか三名>

債務者ら代理人弁護士 西垣立也

同 八代紀彦

同 佐伯照道

同 辰野久夫

主文

債務者らは、債権者に対し、自己において直接又は債務者らの所属する協同組合、工業組合を通じて間接にセメントメーカー及びセメント販売店らに脅迫を加え或いは圧力をかける等して、債権者がセメントメーカー、同販売店らからセメントを買受ける行為を妨害したり、債権者がセメントを買受け又は買受けたセメントを運搬するのを実力で妨害してはならない。

訴訟費用は債務者らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、債権者

1  債務者らは、袋セメント及びばらセメント販売店(以下セメント販売店と言う)に対し、債権者にセメントを販売すれば今後一切セメント製造販売業者(以下セメントメーカーと言う)からのセメントの卸売りを停止させ経営を成り立たなくさせる等の脅迫を加えたり、その他の行為によりセメント販売店から債権者がセメントを購入する行為(セメント販売店が債権者にセメントを販売する行為をも含む)を妨害してはならない。

2  債務者らは、セメントメーカーに対し債権者にセメントを販売してはならない旨の申し出をしたり圧力をかけたり、債務者らの所属する債務者舞鶴生コンクリート協同組合又は京都生コンクリート工業組合舞鶴支部又は京都生コンクリート工業組合を通じて同様の言動を使用して債権者が袋セメント及びばらセメントをセメントメーカーより購入する行為(セメントメーカーが債権者にセメントを販売する行為を含む)を妨害してはならない。

3  債務者らは、債権者のセメント運搬用タンクローリー車に対し、自動車で尾行したり、蛇行運転、追越、急停車等の無謀運転を為して、右タンクローリー車の走行を妨害してはならない。

4  債務者大谷商会大谷生コンこと大谷泰孝はその敷地内事務所に望遠鏡を設置して債権者の動静を観察したり右債務者敷地内に設置した見張り小屋から債権者の工場内の動静を見張る等の行為をしてはならない。

5  その他債務者らは、債権者に対し、債権者が袋セメント及びばらセメント販売店よりセメントを購入することに対する一切の妨害行為を為してはならない。

二、債務者ら

債権者の申請をいずれも却下する。

第二、申請の理由

一、債権者白鳥生コン株式会社は、その設立発起人の一員である申請外株式会社安東建設(以下安東建設という。)ほか舞鶴市内の建設業者らにより生コンクリートの製造販売を目的として設立されたものであり、その設立に至る経緯は次のとおりである。

1  右安東建設ら舞鶴市内の建設業者らは予てから債務者大谷商会大谷生コンこと大谷泰孝(以下大谷生コンと言う)、同京北生コン株式会社(以下京北生コンと言う)、同舞鶴生コン株式会社(以下舞鶴生コンと言う)の三業者(以下生コン三社と言う)らの価格協定により赤字覚悟の建設事業の遂行を余儀なくされてきた。そこで、安東建設ら建設業者七社は建設業協会なる任意団体を創設し、生コン三社と生コンクリート(以下生コンと言う)価格につき交渉を続けてきたが右生コン三社らはその独占販売体制に物を言わせ、文句を言う業者には生コンの供給を停止させる等強硬手段に出るため、右建設業者らは近隣の綾部、福知山、宮津各市内の同業者よりは一五パーセント以上高値の生コンを購入しなければならなかった。そこで安東建設は病院、学校、港湾等の公共事業を抱えているため、他府県から債務者らの販売価格より一立方メートル当り一、五〇〇円も安い生コンを購入したところ、債務者らは右府外生コン業者に対して圧力をかけ、セメントメーカーからのセメント供給を停止させる等の行為を行った。

2  一方生コン三社は、不況対策と称して中小企業等協同組合法にもとづき昭和五四年一〇月に債務者舞鶴生コンクリート協同組合(以下債務者協同組合と言う)を設立してその統制色を強めてきた。

3  そこで安東建設ら建設業者らは債務者協同組合に加盟する生コン三社とは別個の新生コンプラント建設の必要性を強く感じ一一五、〇〇〇、〇〇〇円の巨費を投じて債権者会社を設立し、生コンの正常な価格の維持、流通を企図した。

以上のとおり、債権者会社は安東建設ほか舞鶴市および周辺の建設業者らが、債務者ら既存の生コン三社の独占的販売形態による不合理、不利益等に堪えかねて自衛のために設立したものである。

二、債務者らは、右債権者会社の設立は生コンクリート協同組合の統制を破るものであるとして昭和五四年六月債権者会社の新生コンプラント建設自体に必要な生コンの販売を理由なく拒否し、同月債務者京北生コン代表者は、債権者会社が既に営業用生コンクリートミキサー車(以下ミキサー車と言う)七台の購入契約を締結していた京滋日野自動車販売(株)舞鶴支店の支店長に対し脅迫を加えて同会社をして債権者会社に対するミキサー車の販売を断念させて債権者の右自動車販売会社からのミキサー車購入を不可能とし、徹底して新プラントの建設を妨害阻止する態度に出、引続き次のとおり直接または間接に債権者のプラント建設および営業を妨害している。

1  昭和五四年一二月から昭和五五年一月にかけて袋セメント及びばらセメント販売業者である上原成商事(株)舞鶴営業所、有限会社小野沢砂利建材店、三谷商事(株)小浜出張所らに対し「債権者会社に対してセメントを売るな、売ったものは今後一切セメントの卸売を停止させ、経営がなりたたないようにしてやる」等の脅迫を行ない、債権者に対するセメントの販売を停止させて債権者のセメント購入を妨害し

2  同年一月頃から債権者会社工場敷地に隣接する債務者大谷生コンの敷地内に建設した見張り小屋及び同敷地内事務所に設置した望遠鏡で債権者工場からのセメント運搬用タンクローリー車(以下タンクローリーと略称する)及び債権者会社工場の動静を常時監視し始め、右工場からタンクローリーが白鳥街道に出る度毎に普通乗用自動車数台により長距離、長時間に亘って尾行し蛇行運転、無茶な追越し、直前の急停車等無謀な運転をしてタンクローリーの走行を妨害してセメントの購入、運搬を著しく困難とし、

3  債権者は、債務者らの妨害に合いながらも同年二月七日に新生コンプラントを完成させたが、債務者らは、その後も同年六月頃にかけ、セメント販売業者である旭産業(株)、西村久夫商店、日引商事(株)、上原成商事(株)舞鶴出張所、三谷商事(株)等舞鶴市及び近郊のセメント販売業者および福井県、滋賀県、大阪府等隣接府県内所在のセメント販売業者またはセメントメーカーの従業員らに対し別紙番号1ないし10記載のとおり、前同様の脅迫ないし圧力をかけて債権者がこれらの業者、メーカー等からセメントを購入するのを妨害し、かつ、債権者のタンクローリーを乗用車で尾行したうえその通行およびセメントの運搬を妨害し或いは債権者のセメント購入先に対し実力で嫌がらせを行うなどして債権者の営業の妨害を続けてきた。

第三、債務者らの認否および主張

一、申請の理由一のうち債権者会社および債務者協同組合設立の事実は認めるがその余の事実は否認する。

舞鶴地区の生コンが近隣の福知山、宮津両地区より一五パーセント以上高値であったことは一度もなかったし、債務者らが、生コンの価格決定に異議を述べた建設業者らに生コンの納入を停止したこともなく、府外生コン業者にセメントメーカーを通じて圧力をかけたこともない。後に述べるように舞鶴地区では新プラント設立を必要とする基盤は全くないのに安東建設が自己の利益追及の目的で新プラント建設に踏み切ったものである。

債務者協同組合は債務者ら小規模事業者が相互扶助と品質の向上、経営の近代化等を目的として設立されたものである。

二、同二冒頭記載の事実のうち債務者らが債権者会社の新プラント建設に必要な生コンの供給を停止したこと、債務者京北生コン代表者が京滋日野自動車販売(株)舞鶴支店に対し申入れをしたことは認める。しかしながら右生コンの供給を停止したのは債権者代表者ら自身が債務者らからの生コンの購入を拒否したものであるし、債務者らが自己と競争関係に立つことになる債権者会社に対し、そのプラント建設に必要な生コンの供給を停止したとしてもそのこと自体企業防衛及び取引慣行の見地からいって何ら違法なことではない。また後者については債務者らと京滋日野自動車販売(株)とは創業以来の長い取引関係があり従来より同社の自動車を購入してきたのにかかわらず、長年の顧客である債務者らと競争関係に立つ債権者にミキサー車を納入するなら債務者らとしては商道徳上他社から購入せざるを得ない旨申入れたに過ぎず、取引自由の原則上何ら違法なことではない。

同二の1の事実は否認する。債務者らは企業防衛その他の見地からそれぞれの系列セメントメーカー及び特約販売店に対し、舞鶴における長年の取引関係からして自己と競争関係に立つ債権者会社にセメントを納入することを差し控えてほしいと要請したことはあるが、上原成商事(株)らセメント販売業者ら三者に対し個別に脅迫等を加えた事実は全くない。

同二の2の事実中、債務者らが債権者主張の小屋を一時監視の目的で利用したこと、債務者大谷生コンの事務所に望遠鏡を設置したこと、セメント運搬用タンクローリーを普通乗用車で追尾したことは認めるが、債権者主張のような無謀運転、走行妨害等の事実は否認する。前者については債権者工場に納入されるセメントの量を知るためにしたもので、同業者としての立場上競争相手の工場へのセメント搬入量を調査することは企業防衛のため必要なことで何ら違法ではない。後者に関し、債権者のタンクローリーを追尾したのは企業自衛の見地から競争会社が何処からセメントを仕入れるかを調査するためであって、このように債権者の仕入れルート等を適確につかみ、債務者らの製品の価格決定、品質向上のための参考にするための調査は自由競争の原則のもとにおいては何ら違法性を帯びないものである。

同二の3冒頭の事実中、債務者らはそれぞれのセメントメーカーおよび特約販売店に対し、前記のとおりの要請をしたことはあるが右は、従来から住友セメント(株)および大阪セメント(株)とだけ取引を継続してきたという特殊事情によってメーカーおよび特約販売店の商道徳上の判断に訴えたに過ぎず、セメント販売業者らを脅迫したことおよびセメントメーカーに対し圧力をかけたことは否認する。セメントメーカーはいずれも大手の大資本であって地方の零細企業である生コン業者の圧力などあり得ないもので、メーカーおよび特約販売店らは債務者らの右要請に対し、それぞれ独自の企業判断にもとずいて対処方を検討のうえ生コン業界の健全な発展の見地ならびに自己の経営基礎の安定化、商道徳上の判断にもとづいて、債務者らと競争関係に立つ債権者会社とは取引をしないとの立場をとったものである。

同二の3別紙番号1の脅迫の事実は否認する。債権者会社に住友セメントが納入されたことが判ったのでその真偽を確めるために住友セメント(株)を通じて同社の大阪支店で電化セメント(株)の林課長と債務者京北生コン代表者国本が会い事情を尋ねたところ詳細は調査のうえ電化セメント(株)から債務者協同組合に報告するとのことで、調査の結果武富が右の報告に来所したもので、武富を吊し上げたりして脅迫したことも、林課長に対し脅迫したこともない。

同二の3の別紙番号2ないし7、9、10の事実はいずれも否認する。

同二の3の番号8の事実中、債務者らが債権者主張の日に住友セメント(株)江原サービスステーションのセメント積出口にミキサー車三台を搬入して塞いだことは認めるが債務者京北生コン代表者国本が北浦商事(株)に債権者主張のような強要をした事実は否認する。債務者らが右の挙に出たのは住友セメント(株)が債権者にセメントを入れた旨を聞知したので住友セメント(株)に抗議する意味でなしたものではあるが、そのような目的であったとしても、右行為が行き過ぎであることは債務者三社とも自覚しており二度とこのような挙に出る意思はない。

三、債務者らの主張

1  我国における生コン業界は従来過剰設備による過当競争により転廃業の繰返しでその体質には旧態依然たるものがあったが、昭和五一年二月通産省から「生コン産業近代化のための六項目」の提言(行政指導)を受けて以来協同組合、工業組合が組織化され、協同組合による共同販売事業、工業組合による調整規定及び中小企業近代化資金等助成法にもとづく構造改善事業等に取組み、昭和五三年度には全国工業組合化を達成し、昭和五四年六月現在全国で二二〇の協同組合が組織され、内一七二協同組合が共同販売事業を実施し、構造改善事業についても二八工業組合が実施し、三工業組合が申請中であり、生コン業界の以上のような努力は国の早急に構造改善事業を行う必要があるとの判断と相まって中小企業近代化促進法による「指定業種」と「特定業種」とに同時に指定される(昭和五三年八月二九日告示)という異例の成果を生み、更に国の行政指針である生コンクリート産業近代化計画の策定となって結実した。

2  このように我国の生コン業界の現状は、本格的な体質改善を近代化計画に沿って前記法律の構造改善事業の中で達成し、品質の管理、経営の安定化、過剰設備による過当競争の排除等を目指し、それにより国民経済の健全な発展と国民生活の安定向上に寄与しようと努力している段階である。

3  本件の生コンプラント新設の問題も、以上のような現在における我国生コン業界の実態との関連で考察されなければならない。即ち、現在生コン業界は、政府、通産省と協力体制をとって近代化計画を推進しているのであり、その努力に逆行する新増設については自ら反対の意思を表明せざるを得ないものである。けだし、生コン業界が右法律の目的達成のためにまずもって目指すことは「品質の管理」と「経営の安定化」であり、そのためには「競争の正常化」の確保は不可欠であり、新増設を無制限に認めると、従来のように過剰設備による過当競争の弊を招くことになるからである。従って、生コン業界としては競争の正常化を図るため一方では過剰設備の共同廃棄を実施し、他方で事業の共同化、協業化、合併、提携等の企業の集約化を行うことによって「工場の適正配置」を目指しているのである。

4  舞鶴地区における生コンの需給バランスは供給に見合う需要がなく、債務者三社は昭和四五年頃より昭和五三、四年頃まで累積的に赤字経営が続いており、債務者生コン三社の工場における従来の稼働率は平均二〇パーセント弱の低さであって、最近漸やく長年の赤字経営から脱出したところで、まだ各工場の稼働率は低く需給バランスも正常化されていない状況である。このように舞鶴地区では新プラントを設立する基盤は全くなかった。

5  債権者側の約束違反

(一)、昭和五四年二月現在の債権者代表者である申請外安東建設代表者から債務者生コン三社代表者らに対し、生コンプラント新設の申入れがあり、その際、債務者らは前記業界の実情と新設に伴う過当競争、経営悪化の弊を説明し再考を訴えたのに対し、安東建設代表者は、新プラント建設希望を固執した。

(二)、そこで、債務者らは同年八、九月頃京都生コンクリート工業組合理事長千原善造に仲介を依頼し、同人はその頃舞鶴市内において債権者代表者および専務取締役安東経芳両名と合い、両名に対し、舞鶴地区の生コン業界の実情を説明したところ債権者代表者らは市況の良くなる一、二年先までは新プラントを建設しないことを約した。

(三)、ところが、債権者代表者らは右約束に反して新プラント建設の工事に着手し、プラント建設のための基礎コンクリート打ちを進めたため、前記千原は同年一〇、一一月頃東舞鶴において再び債権者代表者らを説得したところ、同人らは工事を中途で中止するのは地元に対する面子がありプラントだけは建てさせてほしい、ただ操業は需要が上向きになるまで待つというので、現時点では操業しない約束でプラント工事の続行を認めた。

(四)、ところが、債権者代表者らは右約束を反古にして新プラントの操業を開始しだした。同五五年二月二二日宮津市において、前記千原は、債権者側の仲介者を買って出た金下修三との間で協議した結果、同人は、最終的に千原に問題解決を一任したので、右千原はこれにもとづき債権者代表者らと交渉した結果、安東建設ら建設業者らが受注している公共事業が大体終る見込みの昭和五五年三月末で債務者三社の取引先である建設業者らを債務者らの得意として返えし、同年四月以降は白鳥生コンを安東建設の自家用生コン製造にのみ使用する旨の合意が成立した。しかるに、債権者側はまたしても約束に反し通常営業を継続しているものである。

6  以上で明らかなように、債務者ら生コン三社及び三社で組織する債務者協同組合は、白鳥生コン新設には反対の立場であり、企業自衛、自由競争の見地よりそれぞれ自己の系列のセメントメーカー並びに販売店等に対し商取引における道義に訴えた協力要請は行ったが、決して債権者主張のような圧力ないし脅迫を加えた事実はないし、またそれは不可能である。ただミキサー車搬入等やや行過ぎの行為があったことは認めるが、債権者の新プラント建設自体、舞鶴における生コン業界の実情を無視し、金下修三の支援を背景に私利私欲を狙った無謀な行為であり、かつ、度重なる約束違反事実の存在に前掲生コン業界の現状セメントメーカーと生コン業者の関係等を総合すると債務者らの行為の違法性は極めて少ないうえ、安東建設および債権者の公正取引委員会への提訴、債権者の警察署長に対する告訴、本件申立等もあって債務者らが今後同様の妨害行為等に及ぶ危険性はないから、債権者の本件申立は却下されるべきである。

第四、債務者らの主張に対する債権者の反論

一、債務者らは、債権者プラント建設の妨害を中小企業近代化促進法によって容認されているかのように主張しているが、同法律はこのようなことを容認したり勧めたりしているものではない、同法律は、各企業が合理的に設備と運営方法を作り出し、かつ維持することを目指すものであり、生コンプラントについてはそのバッチャープラントの近代的設備の設置と、人員、自動車の数等を指定しているのであって、むしろ債権者のプラントはその要望に応えるものである。能率の悪い設備を淘汰し、効率の高い品質の良い物を生み出すプラントの建設、改造を促進するのがこの法律の目的であって、旧態依然たる設備を守り通して競争相手を作り出させないことを目的とするものではない。

近代化促進法によれば生コン工業組合を結成したときは、中小企業構造改善計画について通産大臣の承認を受けなければならないことゝなっているが、債務者らの所属する京都生コンクリート工業組合はまだこの承認を得てもいない。このような者が自己の改善に努力しようともせず、ただひたすら競争相手の出現を妨げるために集団の力を利用して法の趣旨を自己に有利に利用してこれをわい曲して適用しようとしているのである。従来の生コンクリート業界は、新設生コンプラントの建設、操業を阻止することにより、自己の独占的地位を確保するため全国生コンクリート工業組合の指導のもとに各地域の生コンクリート工業組合と各地域の生コンクリート協同組合が共同してセメントメーカーに圧力をかけ、新設生コンプラントにはばらセメントを入れさせないようにし、袋セメントをも入れさせないようにしており、本件もその一環としてなされているものである。

二、債務者の主張5の(一)ないし(四)の事実中、千原善造と債権者代表者ら、右千原と金下修三が債権者ら主張の日時頃それぞれ接触したことは認めるが、その結論は凡て否認する。

三、同6記載の債務者らがセメントメーカーに対し圧力をかけることがあり得ないとの点は否認する、セメントメーカーはそれぞれの系列の特約店を通じてセメントを販売しており、各地域に単独の専売店を持っているため、この窓口を通じてセメント販売ができなくなれば大きな打撃を蒙ることになるし、最も大口のセメント需要者は生コンプラントであり、しかもこれが府県単位或いは全国的に連合体を結成しているのであるから、いかに大手のセメントメーカーといえども対抗できないのが実情である。

安東建設および債権者が公正取引委員会へ提訴したこと、債権者が警察署長に対し債務者ら代表者らを告訴をしたことは認めるが、債権者の右行為の後も債務者らの妨害は続いており、警察の捜査の進展した段階で目立つような行為をわざと慎しんでいるが、仮処分事件終了後再び露骨な妨害行為を繰返すおそれが強い。

第五、疎明《省略》

理由

一、債権者白鳥生コン(株)が申請外株式会社安東建設ほか舞鶴市内の建設業者らにより生コンクリートの製造販売を主たる目的として設立されたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると昭和五四年一二月二五日右会社の設立登記のなされたことが疎明される。

二、《証拠省略》を総合すると次の事実が一応認められる。

舞鶴地区では従来から債務者生コン三社が操業しており、材料となるセメントの購入については債務者大谷生コンは大阪セメント株式会社の特約販売店大建産業から同会社製造のばらセメントを、債務者京北生コン及び債務者舞鶴生コンは住友セメント(株)の特約販売店渡辺物産から同会社製造のばらセメントをそれぞれ購入し、各生コン業者が需要者に直接販売する形態をとっていた。一方需要者である舞鶴市内所在の建設業者らの一部は任意団体である舞鶴建設業協会(京都建設業協会舞鶴支部)を結成し、遅くとも昭和五二年五月以降は債務者生コン三社の生コンの値上げ要求に対しては右協会が窓口となり右三社との間で交渉を続けてきたこと、昭和五二年五月頃、原材料、人件費等の値上がりを理由に値上げを主張する債務者生コン三社と、現在でも他地区に比し高値過ぎると受取っている右建設業協会との間で交渉が続けられ(その後債務者三社は昭和五四年一〇月舞鶴生コンクリート協同組合を結成し、以後同組合と右建設業協会との間で折衝した。)たが数年間に亘る交渉にもかゝわらず価額についての最終的妥結を見ないという状態のため、右建設業者らはそれならば生コンを自家製造して公共事業その他の建設工事に供しようと考えるに至り(株)安東建設が主軸となって昭和五四年四月頃新生コンプラントの建設を企図し、右建設業協会の会員らにより債権者会社設立の運びとなった。一方、債務者らは、いわゆる石油危機を契機に債務者三社の操業率が低下しており、前記のとおり値上げを求めていた矢先に舞鶴地区では大口の需要者である安東建設ほか建設業者ら多数が結束して会社を設立して自家用の生コンの製造を行い、さらに販路を他に拡張することになれば既存三社の死活にかかわることになるとの見地から債務者らは生コン協同組合の連合体である京都生コンクリート工業組合の応援を得てこぞって債権者会社の設立に反対し、これを阻止する態度にでることとなった。

三、《証拠省略》を総合すると次の各事実が一応認められる。

(一)、債務者らは、債権者の新生コンプラント建設用の生コンの供給を拒否し、さらに債権者が昭和五四年五月京滋日野自動車販売(株)から営業用ミキサー車七台の購入契約をしているのを知り、債務者京北生コンの代表者らにおいて右販売会社舞鶴出張所長に対し、若し債権者にミキサー車を販売するなら組織を上げて日野自動車の不買運動を起す趣旨のことを強調したことから、債権者への納入前日に至って右販売会社から契約の解約を申し出て納入を拒否したため、債権者は已むなく宮津市、高浜町などの業者から生コンを購入したり袋セメントを買入れたうえ簡易バッチャープラントで自製生コンを使うなどして新生コンプラントの建設を進め昭和五四年中にこれを完成させ、ミキサー車については急拠三菱自動車販売(株)から三菱自動車を購入し(債務者生コン三社が債権者の新生コンプラント建設用の生コンを供給しなかったこと、債務者京北生コン代表者が京滋日野自動車販売(株)に働きかけ、その結果同会社が債権者にミキサー車を納入しなかったことは当事者間に争いがない。)、昭和五五年二月七日漸やく操業可能の状態となった。

(二)、債権者は、創業に当って、セメントメーカー、セメント販売店等に対しセメントの供給に関し協力を求めたが、債務者らおよび連合体である京都生コンクリート工業組合(以下京都生コン工組と略称する。)等の強力な働きかけないし圧力または妨害により表立って販売店等の協力を得ることができないため協力を得られる販売店から秘かにセメントの積込みをすることを余儀なくされていたが、債務者らは債権者工場と道路を距てて隣接する債務者大谷生コンの敷地内に建設の仮設建物および同社事務所内に設置した望遠鏡で債権者工場に出入りするタンクローリーを監視し、工場を出るタンクローリーを数台の乗用車で尾行してそのセメント仕入先を突きとめようとし、時にはタンクローリーの前方で蛇行運転をしたり急停車するなどの嫌がらせを行うなどし、これらにより債権者にセメントを供給する販売店が判明したときは自ら直接電話で強い口調で債権者にセメントを納入したことをなじり、取引きの中止を求め、或いは所属の協同組合、京都生コン工組を通じて同様の処置を求め、さらに近畿連合体または全国の連合体をバックに債務者三社および右工組所属の生コン業者と取引きのあるセメントメーカー従業員に強く働きかけ、その系列を利用して販売店等に圧力をかける等して、債権者が材料のセメントを入手することができないように仕向け、債権者主張の申請の理由二の1、3掲記(別紙番号10を除く。別紙番号4のうち「敦賀セメントの販売を全国的に妨害する」を除く。)のとおり昭和五四年一二月から昭和五五年六月にかけ、債権者に対し直接、間接セメントを納入している業者に脅迫まがいの言辞を弄し或いは直接行動により妨害するなどして債権者の取引先をして債権者へのセメント販売を断念させ、債権者のセメントの購入を著しく困難とし、その営業を妨害した(申請の理由二の2のうち債務者らが、債権者主張の仮設小屋を一時監視の目的で利用したこと、債務者大谷生コンの事務所に望遠鏡を設置したこと、債権者の工場を出るタンクローリーを普通乗用車で追尾したこと、同二の3本文のうち債務者生コン三社がそれぞれの系列のセメントメーカー及び特約販売店に対し債権者にセメントを納入することを差控えるように要請したこと、同二の3の別紙番号1のうち住友セメント大阪支店で電化セメント(株)(電気化学工業(株))の林課長と債務者協同組合で同会社の武富と債務者側がそれぞれ債権者主張の日時に会合したこと、同番号8のうち、その主張の日時場所で債務者三社の大型ミキサー車でセメント積出サイロの入口を塞いだことはいずれも当事者間に争いがない。)。

《証拠省略》中上記疎明に反する部分は《証拠省略》に照らし易く措信できないし、《証拠省略》によるとセメントメーカーが、値上げを拒否した生コン業者に対しセメントの納入を拒否したことが疎明されるが、《証拠省略》中の一部、債務者らの主張(第三の二末尾)事実等を併せ考えると右事実の存在は前記のとおりの疎明を認めるにつき妨げとならず、他に前記疎明を覆すに足りる資料はない。

四、債務者ら主張のように生コンクリート製造業は中小企業近代化促進法所定の「指定業種」、「特定業種」とされており、主務大臣策定にかかる生コンクリート製造業の「近代化計画」によると、生産方式の適正化、過当競争を防止するため工場配置の適正化を推進し併せて事業の共同化に努めることがうたわれており、構造改善が急務とされている折柄、債務者らがいわゆる石油危機以降操業率が低下して赤字経営を続け、最近漸やく順調な操業の見通しがついた時点に主要な需要先である安東建設ら大手に属する建設業者らが生コンを自給し、将来なお販路を他に拡張するおそれのあるところから新生コンプラント建設に反対するのは自然の勢いとみることができるが、単に新設プラントの建設に反対するにとどまらず、自ら又は所属組合を介し脅迫的言辞を弄し、或は実力をもって販売店等に直接或いは自己及び所属工業組合と取引関係にあるセメントメーカー従業員等に組織の影響力等を背景に圧力をかけてその系列を利用して間接に或いはこれと共同して原材料の入手を困難ならしめその建設、操業を妨害することはいわゆる独占禁止法の規定を俟つまでもなく違法で許されないものといわなければならない。

五、債務者らは、債権者代表者が債務者ら代表者及び京都生コン工組理事長らに対し、生コンを製造しないこと、最終的には製造しても安東建設の自家用にとどめる旨を約したのに生コンを製造し、かつ、右会社の自家用にとどまらず債権者会社の株主ら他の建設業者の需要にも供しようとした約束違反があった旨主張し、債権者代表者が債務者ら代表者や京都生コン工組理事長らとその主張の日時、場所で会合したことは当事者間に争いないが、《証拠省略》中、右債務者らの主張に副う部分は前掲各証拠ならびにその前後における各当事者の行動等に照らし易く措信できない。

六、債務者らは、債権者が操業を開始した現在、債権者の事業活動につき違法な妨害行為をする意思がないうえ債権者および安東建設において公正取引委員会に提訴し、又債権者による告訴がなされその調査、捜査がなされている現在債務者らにおいて今後債権者の営業の妨害行為にでる危険性がないから、仮処分の必要性がない旨主張し、右各提訴、及び告訴のなされたことは当事者間に争いがないが、《証拠省略》によると、その後債務者らによるあからさまな直接の妨害行為はないものの、所属団体又はメーカー、特約販売店等による前同種行為が継続されていること、そのため債権者は未だに公然とセメントの取引をすることができず、現在もセメントの継続的入手に困難を極めていることが疎明され、これに前記各疎明事実を総合すると、このままでは将来も債務者らによる妨害のおそれが少くないものといわなければならない。

七、そうすると、債務者らの妨害の禁止を求める債権者の本件申立ては理由があるから相当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡田春夫)

<以下省略>

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